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眼内レンズ

眼内レンズ

眼内レンズについて - 度数の選び方と種類 

はじめに 調節力について

若い人の目は水晶体の厚みを変えることで遠くから近くまでピントを合わせることができます。ピントが合う距離をかえる力を「調節力」といいます。カメラのオートフォーカスのようなものです。
調節力は年齢とともに徐々に衰え、40代後半からはいわゆる「老眼」になります。ピントが合わず見えにくい距離を見るために老眼鏡や遠近両用メガネを使って不足する調節力を補う必要があります。

日常生活での距離の目安

若い人の目(遠くを見る眼鏡が必要な人は眼鏡をかけた状態)

高齢者の目(遠用眼鏡が必要な人は眼鏡をかけた状態)

用語解説

ピントが合ってはっきり見えるところを「明視域」といいます。 若い人の明視域は広く、老眼になると明視域が狭くなります。

白内障手術で使う眼内レンズには調節力がありません。
したがって事前に裸眼で見たい距離を決め、それ以外の見えにくい距離は眼鏡で補います。
「遠方合わせ」:裸眼で遠くが見えるようにすること。中間〜近方はかすむ
「近方合わせ」:裸眼で近くをみるようにすること。遠方〜中間はかすむ
「中間あわせ」:裸眼で中間距離を見やすくする。遠方と近方はかすむ。

※いずれの場合も屈折誤差(術後に残った乱視など)の影響がでます。 例えば遠方合わせの場合でも遠用眼鏡があったほうがよりよく見える場合が多いです。

当院の白内障手術では患者様の目の状態に合わせて主に下記 ① ~ ③ の保険適応レンズを用いています。どのレンズにもメリット・デメリットがあります。 どのレンズを用いるかは術前の検査結果から最適なものを選択します。 ①〜③どのレンズも保険診療の範囲で使用できますので、患者様のご負担額は変わりません。 

白内障手術費用(保険適応)
1割負担 2割負担 3割負担
約18,000円 約35,000円 約53,000円

①単焦点レンズ

裸眼で焦点が合う距離が一カ所です。
遠方合わせなら近用眼鏡、近方合わせなら遠用眼鏡が必要です。
乱視が強い方には乱視矯正用のタイプを利用して極力乱視を減らします。
明視域が狭い代わりにすべての光エネルギーが網膜に集中しますので、ピントが合ったところは他のどのタイプの眼内レンズよりも鮮明に見えます。特に網膜感度が下がってくる80歳以上のご高齢の方や、他の眼疾患により網膜感度が下がっている場合にはいい適応になります。誰もが将来80歳以上になることや将来どんな病気にかかるかわからないことを考えると最も無難な選択だと思います。

単焦点レンズ 遠方合わせ

遠方合わせはもともと目が良かった人(正視や遠視)におすすめ。 裸眼で遠くが見える。
中間〜近方はメガネが必要

単焦点レンズ 中間合わせ

中間合わせはもともと軽い近視だった人におすすめ。
(裸眼視力0.2~0.5程度。 運転のときだけメガネ、家の中ではメガネをかけたりかけなかったりしていた人)
→元と同じくらいの軽い近視になるようにピントをあわせる。
(遠くもまあまあ、近くもまあまあ見える。運転のときや細かい字を見るときはメガネが必要)

単焦点レンズ 近方合わせ

近方合わせはもともと強い近視だった人にいおすすめ。 (裸眼視力0.1以下で遠くも近くも見えにくかった人)
中間〜遠方は眼鏡が必要。

②レンティスコンフォート

保険診療の範囲内で使用可能な唯一の多焦点眼内レンズ。① の単焦点レンズに比較して明視域が広いレンズです。
遠方合わせ→遠方から中間距離が見える 近方は近用メガネが必要
中間合わせ→中間距離〜近方が見える 遠方は遠用眼鏡が必要

① の単焦点レンズに比べて眼鏡の使用頻度を減らすことができます。簡単に言うと「少しだけ老眼が軽くなる」レンズです。
ただし乱視が強い方にはおすすめできません。多焦点性を生む加入度数が少ない代わりにグレアやハロといった多焦点レンズならではの見えにくさは軽いとされます。
保険診療の範囲で使えることも相まって非常にお勧めしやすいレンズです。

レンティスで遠方合わせ

遠くだけでなく、中間距離まである程度見える。 近くの細かいものはメガネが必要。
光学的不快現象が少しある。夜運転する人は少し気になる。

レンティスで中間合わせ

中間距離から近方まで見える。 運転など遠くを見るには眼鏡が必要。
光学的不快現象が少しある。

③テクニスアイハンス

①の単焦点レンズに比較して明視域が少し広いレンズです。②のレンティスほどではありません。その代わりグレア・ハロが単焦点並みに少なく、シャープな見え方です。
乱視が強い方には乱視矯正用のタイプを利用して極力乱視を減らします。夜間の運転が多い人、遠くの見え方を重視する人にもおすすめできます。

選定療養で用いる眼内レンズ

保険診療で使用できるレンティスコンフォート以外の多焦点眼内レンズを用いる場合には選定療養となりレンズ代金が追加でかかります。多焦点眼内レンズには種類が多数あり、用いる多焦点眼内レンズの種類により金額は異なります。多焦点レンズは多かれ少なかれ光がにじむ「グレア」「ハロー」や「なんとなくかすむ」といった見えにくさがあり、特に細かい作業をする人や夜間の自動車運転が多い方には問題になることがあります。『遠くの見え方の質を多少犠牲にし、その代わり明視域をひろげて近くにもピントが合う様にしているレンズ』であり、現時点で若い人の水晶体に匹敵するような完璧な多焦点レンズは存在しません。この分野は日進月歩で新しいレンズが続々登場しており、価格もそれぞれです。
こちらも参照して下さい。
多焦点眼内レンズでの手術をご希望の方はご相談下さい。
ここでは新しいレンズのクラレオン・ビビティ(焦点深度拡張型自然視覚レンズ)を紹介します。

クラレオン・ビビティ(Vivity)

Vivity は2023年に国内承認された新しい多焦点レンズです。

従来の多焦点眼内レンズの多くは「回折構造」という仕組みを利用し焦点を「遠方」「中間」「近方」に振り分けます。広い明視域が得られ遠方から近方まで見えるのは良いのですが光学的不快現象やコントラスト感度低下がデメリットでした。これが気にならない人にとってはとてもいいレンズでしたが、気になってしまう方の中にはせっかく入れた多焦点レンズを摘出し単焦点レンズに入れ換える症例もありました。どのくらい気になるか手術前に予測することが難しく課題でした。

Vivityは回折構造は用いない、波面制御型焦点深度拡張レンズです。独自の波面制御(X-WAVE™テクノロジー)により、優れた遠方視と中間視および実用的近方視が得られるとされています。回折構造がないため回折型多焦点レンズの欠点だったハロー・グレアも単焦点眼内レンズと同程度まで軽減されているため、夜間運転される方の選択肢にもなります。デメリットは近く(30cm)が見えにくいことです。薄暗いところではより顕著になります。(必要時眼鏡をかければ見えます)

私見ですが裸眼で30cmの距離を見るのは諦め、遠くから手元40〜50cmまでそこそこ見えればOK、と思える人には適したレンズだと思います。
(乱視用レンズが未発売のため乱視がある人には不向きです。)

選定療養の費用

実際の費用(片眼手術の場合)

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、保険診療の白内障手術費用に追加で多焦点眼内レンズ代金が追加でかかります。費用はレンズの種類により異なります。

光学的不快現象

手術後の好ましくない見え方を総じて光学的不快現象といいます。
多くの多焦点レンズで用いられている回折構造の多焦点レンズで起こりやすいです。
夜間に強い光源を見た場合に生じるグレア(光が長く伸びてまぶしく見えること)やハロー(光の周辺に輪がかかってみえること)が代表的です。
薄暗いところで見えにくい、視力検査での視力はいいが全体にかすむコントラスト感度低下もときに問題になります。

個人差もあり、術後数ヵ月経つと慣れて自覚症状が軽くなるといわれる一方、いつまでも症状が残る人もいます。これは眼鏡などでも矯正できず、術前に程度を予測することもできないので困りものです。多焦点眼内レンズでの手術を受ける際には必ず知っておいていただきたいことです。 

 光学的不快現象のイメージ 

光学的不快現象は 単焦点レンズとアイハンスには少ないです。
レンティスは単焦点に比較すると少しあります。
回折構造を持つ多焦点レンズには強い傾向です。
多焦点レンズでもVivityは単焦点と同程度とされます

若い人の水晶体に匹敵するような完璧な眼内レンズは残念ながら存在しません。
多焦点レンズは明視域を広げる代わりに見え方の質を犠牲にしている側面があります。

備考

選定療養で使用が認められている多焦点眼内レンズのうち、パンオプティクス、シナジー、シンフォニー、テクニスマルチフォーカルは回折型多焦点レンズです。
Vivityは波面制御型焦点深度拡張レンズです。
保険診療で用いるレンティスコンフォートは低加入度数分節眼内レンズです。

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